みんな間違っている?『えん罪』の本当の意味を解説
警察官採用試験の合格を目指しているみなさんなら、日ごろのニュースなどは注意深くみているでしょう。
そこでよく出てくる用語が『えん罪』です。
でも、この『えん罪』という用語…
実は多くの人が間違った使い方をしています。
どれくらい間違っているかというと、ニュース番組のメインキャスターや偉そうなコメンテーターの方たちまでもが間違っているレベル。
これは大きな問題ですね。
今回は警察官採用試験の合格を目指しているみなさんにはちゃんと理解してもらいたい
『えん罪』
について正しい知識を紹介します。
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【 目次 】
『えん罪』のこんな使い方は間違いです
みなさんは『えん罪』についてこんな使い方をしたり、聞いたりしていませんか?
- やってもいないことの疑いをかけられて「えん罪だ~!」と叫ぶ
- ニュースで「事件の犯人Aさんが逮捕されましたが、すぐに真犯人が出頭したためえん罪だとわかりました」と報道されていた
これが正しい使い方でしょ?えん罪って「間違って疑われること」だよ!
いえいえ、それこそ間違いですよ
『えん罪』を辞書で調べてみる
えん罪とは、すべて漢字だと『冤罪』と書きます。
引用:コトバンク
えん罪の『えん』の部分だけでも「無実の罪」だとか「濡れ衣(を着せられる)」といった意味があるのですから、先ほど例に挙げた表現でも間違っていないように聞こえますね。
辞書にもそう書いてあるのだから間違いなさそうですが…
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法律上の『えん罪』の意味は?
いまの刑事法でいうところの『えん罪』とは、こういう意味になります。
- 間違った事実認定で刑事裁判において有罪が確定すること
なんだか言い回しが難しいだけで、言っていることは「間違って疑われること」と同じような感じがしますが、これが大違いです。
刑事裁判で有罪が確定してこそ『えん罪』になる!
えん罪とは、刑事裁判で有罪が確定してはじめて『えん罪』になります。
つまり、逮捕された時点や、逮捕されずに疑いがかけられているだけの段階、起訴されて刑事裁判で事実を争っている段階では、えん罪とは呼べないのです。
すると、なにかのトラブルで犯人と間違われているときに「えん罪だ!」と叫ぶのは、裁判で刑罰が確定したわけでもないので間違いになります。
ある事件が発生して被疑者が逮捕された話題で、ニュースコメンテーターが「これはきっとえん罪事件ですよ」と解説することも順序がでたらめです。
有名なえん罪事件
日本の刑事事件史上のなかでも、特に有名なえん罪事件をいくつか紹介しましょう。
足利事件
引用:ニッケイ
足利事件は「科学捜査が犯人を特定した」と大騒ぎしたのに、科学捜査の進歩がえん罪であることを証明した事件です。
科学捜査の過渡期を代表するえん罪事件だといえるでしょう。
1990年、父親がパチンコ店で遊戯中に車の中から4歳の女児が連れ去られる事件が発生しました。
翌日には河川敷で殺害された女児の遺体が発見されて殺人・死体遺棄事件としての捜査が展開され、翌1991年には「女児の下着に付着していたDNAと一致した」という理由で45歳の男性が逮捕されました。
男性は刑事裁判で無罪を主張しましたが、最高裁判所の「DNA型鑑定は信頼できる」という評価に負けて無期懲役が確定。
ところが2009年の再鑑定の結果、犯人のDNAと男性のDNAが別人のものであることが認定され、釈放されたのです。
逮捕から17年が経過していたため真犯人の時効は成立。
誤った事実認定で別人を犯人として刑罰に処している間に、永久に真犯人を処罰できなくなってしまったという、警察・検察の失態が目立つ事件でした。
現代の捜査では「同じ時代の地球上に同一のものは存在しない」と言われているDNA型鑑定ですが、当時の一致率は12/1000程度。
83.3人を調べれば一致がでてもおなしくないという精度が低いものだったのですから、その程度の精度で犯人を特定し続けていればえん罪事件になる可能性は十分にあったわけです。
現在では4兆7000億分の1にまで精度が高まっているので、DNA型鑑定は非常に信頼性があるといえます
氷見事件(富山事件)
2002年、富山県内で16歳の女性が強姦未遂の被害をうけ、目撃証言に酷似した男性が逮捕されました。
逮捕当時は犯行を否認していましたが、担当刑事の執拗で卑怯な取調べによって犯行を自白。
同年中に懲役3年の刑が確定し、男性は2005年に出所しました。
ところが、2006年に別の事件で逮捕された男が強姦未遂事件の真犯人であることを自白したためえん罪が発覚。
検察庁では「刑事や検察官を恨んではいない」という調書がねつ造されたり、裁判官は「単に無罪を言い渡すための手続きである」と言い放って事態を糾弾する意向がまったくなかったりと、司法制度の根幹が「腐っていた」時代を象徴する事件でした。
取調べの刑事からは殴る・蹴るなどの暴行を受け、さらに「お前の家族も『犯人に間違いない』と言っているぞ」などとウソを吹き込むなど、卑怯な取調べのオンパレード。
この事件がきっかけとなって、取調べの在り方や自白の価値などについて検討がかさねられて、現在の捜査の形ができあがっているのです。
現代の取調べでは暴行や脅迫、ウソをいって自白を迫るなどは禁止されているよ
面接試験や集団討論で質問されることもある!
ちょっと小ネタ感がある今回の『えん罪』についての記事ですが、実は警察官採用試験の面接や集団討論の際の議題にあがることもあるので要チェックです!
『えん罪』の正しい意味を理解していないと「えん罪で逮捕して…」なんてでたらめなことを言ってしまうおそれがあります。
反対にちゃんと理解していると「よしよし、勉強してるな」とプラス評価につながるでしょう
『えん罪』はあってはならない!
私自身、刑事として勤務を続けてきた中で、まずえん罪事件などはなかったはずです。
なぜなら、DNA型鑑定だけに頼るとか、無理な自白を迫って唯一の証拠とするなんて汚い捜査手法は使っていないからです。
あと、単にそういった類の事件の担当ではなかったというのも大きいですが…
いずれにせよ、古い刑事ドラマなどで描写されている悪しき取調べやずさんな捜査がえん罪を生んでいたことは間違いありません。
かといって、人が取り調べて人が裁いている以上、なんらかのヒューマンエラーでえん罪が起きるおそれは否定できません。
みなさんが警察官採用試験に合格した暁には、きっと足利事件や氷見事件の名前が警察学校や職場での教養のなかでまた登場します。
とても大切なことなので、しっかりと勉強しておきましょう。
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